昨日は緊張してたし、修行に夢中で気が付かなかったけど、 僕のお腹からは空腹を示す音がぐうぐうと鳴り続けていた。



々の黄昏 2



「あ、ここかな。食堂って。」


昨日リナリーに教えてもらった場所を必死で思い出し、ようやくそれらしい所にアレンはたどり着いた。


「うわぁ、おいしそうな匂い。あ、あそこで注文すればいいのかな。」


周囲の様子を見てそう判断すると、アレンは駆け足で注文の窓口に向かった。


「アラん!?新入りさん?んま────これはまたかわいい子が入ったわね────!」

「……ど、どうもはじめまして」

「何食べる?何でも作っちゃうわよ、アタシ!!」


心は立派な乙女だというジェリーの勢いに少々アレンは気圧されたが、 "何でも"という言葉に少し考え込んだ。


「それじゃあ……グラタンとポテトとドライカレーとマーボー豆腐とビーフシチューとミートパイと カルパッチョとナシゴレンとチキンにポテトサラダとスコーンとクッパにトムヤンクンとライス、 あとデザートにマンゴープリンとみたらし団子20本で。」


とんでもない量をしかも全部多めで、というアレンにジェリーも驚く。 とりあえずすぐには無理、ということで前半五つをプレートに乗せてもらったアレンは どこに座ろうかと席を探した。


(どこにしよう……知り合い居ないしなぁ……あ。)


きょろきょろと食堂を見渡すと教団では少し珍しい、科学班の白衣を着た女性の姿を見つけた。 人よりも少し色素の薄いプラチナブロンドの髪は癖もなくすとんと肩まで伸びていて、昨日出会ったあのという女性を思い出させる。


(もしかして……)

「あの……」


おそるおそるアレンが声を掛けると振り返ったのは紛れもなくの顔だった。


「ああ、昨日ぶりだね、アレン君。」

「はい、あの……ご一緒してもいいですか?」

「もちろんだよ、君とまた話ができるとは、嬉しいな。」


そういってニッコリと笑うはまた昨日とは違った表情を見せている。 さあどうぞ、と向かい側の席に促され、アレンは皿一杯の料理達をの前に置いた。


「すごい量だね、君はスリムなのに。寄生型は多量のエネルギーを消費するとは聞いていたけど、 これだけ注文されればジェリーもさぞかしやり甲斐があるだろうね!」

「何だとコラァ!!」


アレンの食事量に目を輝かせながら話すの声は不躾な大声にかき消されてしまった。


「もういっぺん言ってみやがれ、ああっ!!?」

「おい、やめろバズ!」


見ると大柄のファインダーが声荒げて怒鳴っている。


(何なんだ……いったい?)

さん、あの人達は……」


アレンが話しかけた先にはもうは居なかった。 なんと荒ぶるその男の方へと向かっている。


「うるせーな、メシ食ってる時に後ろでメソメソ死んだ奴らの追悼されちゃ味がマズくなんだよ。」

「テメェ……それが殉職した同志に言うセリフか!!」


蕎麦をすすりながら淡々と述べる神田の言葉にバズという男はさらに激昂する。


「俺達ファインダーは、お前らエクソシストの下で命懸けでサポートしてやっているのに…… それを……それを……っ メシがマズくなるだと─────!」


そう言ってバズは神田に殴りかかったが、神田は楽々とそれを避け、逆にバズの首を掴み上げた。


「『サポートしてやっている』だ? 違げーだろ、サポートしかできねぇんだろ。お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ。」


そう言いながらさらに首を締め上げられたバズの口からは泡が出てくる。


「死ぬのがイヤなら出てけよ。 お前ひとり分の命くらい、いくらでも代わりはいる。」


ヤバイ……と周囲の人間は思うものの、神田を止められる者は誰一人いない。 その人垣を通り抜けていったのがだった。


「ユウ、そこら辺でやめてくれないか。 ファインダーであろうと、エクソシストであろうと人一人の命はそんなに軽いものじゃないよ。」

───チッ


の言葉に神田が舌打ちして首から手を離すと、解放されたバズはヒューヒューと苦しそうに荒い息をする。


「バズ、確かに仲間を失うことは辛いなあ。 だけど此処は食堂なんだ。みんな楽しく食事をするために来ているんだ。 追悼なら地下の大聖堂でお願いできるか?」


神田に掴まれた首がまだ苦しいのか、掠れた声でバズは分かった……と返事をした。


一連のやりとりをただ傍観していたアレンだったが、アレンの中でに対する印象がまた一つ変わっていた。 ってすごい、と思った。あの神田を止めることができるなんて。


さっきの騒動など何でもなかったかのように飄々と席に戻ってきたにアレンは色々と聞いてみたいことがたくさんあったのだが、 それはリーバー班長の突然の招集によって中断された。


「あ、いたいた。神田、アレン!それからも! 10分でメシ食って司令室に来てくれ。任務だ!」

「うわ、それじゃあ急がないとね、アレン君。」


そういっては黙々と目の前の食事を片づけ始めた。 アレンも山積みの食べ物を胃袋に詰め込むことに終始せざるえなかった。