「へー……」
感心したような、どこか間の抜けた声を出しながら、目の前の女性は僕の左目をまじまじと見つめた。
神々の黄昏 1
「珍しいね、アクマに呪われた人間なんて。初めて見た。」
そう言いながら女性はどんどん近づいてきて、既にアレンとの距離は数センチ程しかなかった。
お互いの息すらかかるような距離だ。アレンは突然の事に頭が働かず、身動き一つとれなかった。
「ちょっと、!アレン君が固まってるじゃない。離れて!」
「ん?ああ、ごめん。すごく興味深かったから、ついね。」
焦ってリナリーが間に入ってくれたおかげでやっと彼女はアレンから離れた。
離れてもなお、じっとこちらを見つめてくる蒼い瞳から無理矢理目をそらし、アレンは彼女の隣にいるリナリーにおずおずと尋ねた。
「あ……あの、リナリー。この女性はどなたなんですか?」
「ふふ、驚いたでしょ。はね、科学班・開発部の部長よ。」
ね、と言ってリナリーは悪戯っぽくの方を振り返った。
「え……でも、見た感じ僕たちとあまり年、変わりませんよね!?」
部長、と言うことはある程度の地位なはず。
しかし目の前にいる女性はせいぜい10代後半にしか見えないのだから、アレンが驚くのも無理はなかった。
「たしか今年で18歳だったかな。いわく、聖戦に年齢は関係ないらしいよ?君は若いから大変だね。」
「もう、だってそうでしょう?」
「君達に比べたら私などもうおばさんだよ!」
そうおどけた調子でという女性はケラケラと笑った。
その笑顔はまるで先ほどまでとは別人なのだ。こういう人の事を百面相というんだろうか、とアレンは思った。
ザザ……
『ちょっと、リナリー僕の事忘れないでくれる!?早く例の新入り君を連れてきてよ!』
入り口からずっとアレン達に付いてきていた黒のゴーレムから、痺れを切らしたようなコムイの調子が伝えられた。
「あ!すっかり忘れてたわ!……アレン君ごめんなさい。これからすぐに兄さんの所に案内するから。」
「呼び止めてしまってごめんね、リナリー。」
「いいえ、。私こそごめんなさい。また改めてアレン君を紹介するわ。」
そうリナリーは言うと、アレンの腕をつかみ足早に室長室へと向かった。
残されたが、「また一人新しい楽しみを見つけた」とニヤニヤ笑っていた姿をアレンが見ていなかったのは幸いだったのかもしれない。
***
「もう、リナリー遅いじゃないか!待ってたんだよ。」
「ごめんなさい、兄さん。と話し込んじゃって。」
「またか!もう、リナリーとは仲が良すぎだよ。
あ、君がアレン君だね!どーも、科学班室長のコムイ・リーです!」
コムイ、と名乗るその男の独特の雰囲気はと少々似ている。
ちょっと変な人だな、と思いながらアレンは初めましてと挨拶をする。
「歓迎するよ、アレンくん。いやーさっきは大変だったね〜」
アレンが神田に殺されそうになったことの元凶はコムイにもかかわらず、本人はまったく悪びれた様子もない。
コムイ、リナリーと共に階段を下へ下へと下りていくと科学班の研究所らしき巨大な施設が広がっていた。
かなりの階段を下りた所でおもむろにコムイが治療室らしき部屋に入っていくのでアレンはそれに従う。
「じゃ、腕診せてくれるかな。」
「え?」
「さっき神田くんに襲われた時、武器を損傷したでしょ。我慢しなくて良いよ。」
そうコムイに言われ、アレンは傷ついた左腕を治療代の上に置く。
今まで対アクマ武器である左腕を破壊された事が無かったので『治療』がどのように行われるのか興味が湧く。
興味津々、といった風にコムイを見るアレンをよそに、その腕を確認しながらコムイはアレンに話しかけた。
「アレン君はもうとは会ったんだよね?」
「あ、はい。」
「教団にはやっぱり子どもは少ないからさ。仲良くやるといいよ。」
「はあ。」
コムイの唐突な話題にアレンは違和感を感じあいまいな返事をした。
「彼女、僕と同じ科学班なんだけどね、すっっっっごい優秀なんだ。
そのせいで、僕たちたまに彼女が子どもだって事忘れちゃうんだよね。」
──────でもも君もまだ子どもなんだ。
そう言ってコムイは黙りこんだ。
先程までのハイテンションはどこへ行ったのか。真剣な表情でうつむくコムイにアレンは何を言っていいのか分からなかった。
「あの……えっと」
ジャカ
「さ、それじゃあ君の腕の修理をしようか!!」
いきなりの状況の変化に頭がついて行かず、アレンはピシリと固まってしまった。
何時の間に装備したのか、コムイは両手にどう見ても破壊兵器にしか見えない物をもっている。
なんなんだ、この人は。シリアスな雰囲気を出していたかと思えば、今やドリルを手に生き生きとした表情を見せている。
「ちょっとショッキングだから、トラウマになりたくなかったら見ない方がいいよ☆」
「ま、待ってくだ……」
ギリギリゴリゴリブチガゴドリドリドリ……
ちょっとどころではなくかなりショッキングな修理が終了したころには、
アレンは顔面蒼白で、さっきのコムイの言葉は忘れてしまっていた。