「で、どういう事なんだ?」



々の黄昏8



神田は傷ついた腕を差しだしながら、威圧的にに疑問をぶつけた。


「……まあ、実は………今回私が神田達に付いてきたのは、これを試すためだったんだよね。」


そう言っては着ていた白色のコートの端をつまむ。 それは一見しただけではただのコートにしか見えないものだった。


「お前……また自分を実験台にしたのかよ。」

「ちゃんとレベル2にも通用するか試したくてさ……」


神田の事をよく知らないアレンでも、神田の機嫌がどんどん悪くなっているのを感じる。 ならばなおさらだろう。その証拠に、言葉はすべて尻すぼみだ。


「え、と……さん、そのコートっていったい何なんですか?」


神田を取り巻く冷たい空気に少しビビリながらも恐る恐る、アレンはに問いかけた。 するとは待ってました、とばかりに目を輝かせた。神田の視線は都合よく無視している。


「よくぞ聞いてくれました、これは今開発中の新素材なんだよ! 完成したらエクソシストや探索部隊の団服に使われる予定だよ。 今アレン達が着ている団服よりもかなり強度があるんだ。実際、レベル2ぐらいの攻撃なら大きな怪我はしない。」

「チッ……だからって自分から盾になるなよ…… 失敗だったらどうするつもりだったんだ。」

「そうですよ!さん。あの時は心臓が止まるかと思いましたよ!!」


全く反省した様子のないの態度に苦々しく神田が言うと、アレンも珍しく神田の意見に同意した。


「100%大丈夫だという確信を持って私はこれを着てきたんだ。 万が一、失敗で私が死んでも自己責任だよ。」


そう強くが言ったために、アレンも神田ももう何も言わなかった。 前者はただ気圧されたからなのだが、 後者はもう今までにあった数え切れないほどのこういったやり取りに諦めかけていたからだった。


による手当が済んだ後、砂丘に放り出されていたイノセンスをアレンは拾い上げると、 や神田の視線を背中に感じながら、静かにララの身体へとそれを戻した。

しかしイノセンスを体内に取り込み、ぎこちない動作で動き出したララは、もうアレン達の知るララではなかった。


『人間様……歌はイかが……?』


ただの快楽人形となったララは傍で倒れたままのグゾルへと手を伸ばした。


『人間様……私は人形…歌いマスわ……』

「ぼくのために歌ってくれるの?……ララ、大好きだよ。」


そう言ってグゾルは静かに涙を流し息を引き取った。


『眠るのデすか?じゃあ子守唄を……』



***



結局、は攻撃の衝撃で内出血状態だったため病院で強制的に一週間の入院となった。 神田もアレンも酷い怪我ではあったが、の治療のおかげでそこまでの大事には至らなかった。

静かな病室に無機質なコール音が鳴り響いく。 神田は苦々しげに受話器を取り、相手の話に適当に相槌を打っているのがうかがえた。


「今の電話、コムイさんから?」

「ああ。俺は次の任務にこのまま行くから、お前はモヤシと本部にイノセンスを届けろ。」


そう言って、神田は体中に巻かれた包帯を取っていく。 傷跡すらない、綺麗な肢体があらわになる。 何も知らない医者がこれを見れば、"人間離れした"驚異の回復力に驚くだろう。


「その梵字、それ以上広がりだしたら絶対に私に言ってね。」

「は……なんでそんなこと」

「約束して。」


そう言ってが強く神田を睨むと、神田は舌を打ってブチッと点滴の針を引き抜いた。 ほどいた包帯をに投げつけ、置かれていた団服を掴むと医者の制止を無視し病室を出て行った。 はただ黙ってその背中を見送るしかなかった。




***


アレンは未だに地下迷宮の広場から一歩も動いていなかった。 静かにララを見守り続けている。 決死の戦いの後に一睡もしてないのであろう、アレンは憔悴した様子で後ろから近づいたの気配に気づかなかった。 そんなアレンの様子を見ては苦笑しながら優しく話しかけた。


「アレン?寝てないよね。ちゃんと寝て体力を回復させないともしアクマが来たら大変だよ。」

さん?神田は……」

「そのまま次の任務だって。 アレンは私と教団にイノセンスを届けにいくよ。」

「……分かりました。」


神田と違い素直なアレンの返答を確認して も階段に腰を下ろした。


「……まだ、歌い続けてるんだね。 辛いなら、止めてもいいんだよ?」

「約束なんです。ララを壊すのはグゾルさんじゃないとダメなんです。」


純粋だなぁ……とは苦笑した。 教団に所属する人間は、イノセンスを回収するためならなりふり構わない事の方が多い。 それは仕方ないことでもある。教団の人間は多くが家族や恋人をアクマに殺された人間だ。 こうやってイノセンスのために犠牲になった人達の事を考えられる人は何人いるだろう。


「エクソシストは救済者じゃ無い。アクマを壊す破壊者だよ?」

「それでも僕は……」


アレンの返答を待たずに強い風が吹いて、唄は止まった。 ララとグゾルは壊れた天井から差し込む光に照らされている。 それは二人を天国へと誘う、きざはしのようにも思えた。

アレンが静かに二人へと近寄るとララはアレンに小さな声で告げた。


『ありがとう、壊れるまで歌わせてくれて。 これで約束が守れたわ。』


そう言うとぷつんと糸が切れたように崩れ落ちた人形をアレンは受け止める。 そのまま泣き出したアレンに遠巻きから見ていたが心配そうに声をかけた。


「アレン君?」

さん……それでも……僕は誰かを救える破壊者になりたいです。」