──────ドン!
神々の黄昏7
突然の破壊音と共に、けらけらと耳障りな笑い声がホールに響いた。
「アクマか……!?」
はそう忌々しげに呟く。
何だって、こんなタイミングで。
そう吐き捨てた瞬間、
アレンのイノセンスに酷似した腕がララとそれを抱きしめていたグゾルを貫いた。
咄嗟にのばしたアレンの手は二人に届かず、虚しく宙を掻く。
二人を串刺しにしたレベル2はそのまま砂の中へと潜り込んだ。
そして達を中心とした地中をぐるぐるとアクマが通過し、円状に砂がもりあがっていく。
『イノセンス、もーらいっ!!』
砂の中から再び飛び出したレベル2が手にしていたのは二人とララから取り出された光り輝くイノセンスだった。
二人は地面に投げ捨てられた。貫かれたグゾルの胸からじわりじわりと赤く血が広がっていく。
そしてイノセンスを抜き取られたララの瞳は既に光を失っていた。
「ラ、ララ……」
瀕死の怪我を負いながらもグゾルがララ……、と何度も呼び手を伸ばしても、人形は応えることはない。
ただそこにあるのは、心のない壊れた人形だった。
ピリ
『……?』
「返せよ、そのイノセンス。」
アレンの発する禍々しい殺気に気づけばホールは満たされていた。
左腕はその殺気に呼応するかのように奇妙に変形していく。
「返せ」
「ウォ……ウォーカー殿の対アクマ武器が。」
「造り替えるつもりかな。寄生型の適合者は感情で武器を操るから、今アレン君の強い怒りにイノセンスが反応しているんだろうね。」
アレンの禍々しい殺気に当てられながらもは冷静に解説する。
その間にもボコボコと音をたててアレンの武器がより大きく禍々しいものへと変化していく。
レベル2に向かい飛び上がったアレンはまだ武器の造形が完成していないようであったが、
次の瞬間には大きな銃型のイノセンスへと変化しており、レベル2へと一斉射撃をした。
マシンガンの様にレベル2へ何十発何百発と撃っていたが、アレンの心に呼応するようにララ達は上手く避けられていた。
普通、これだけの弾丸を受ければ生きてはいまいという数だったが、
アレンの左目は今だアクマが健在で在ることを示していた。
砂の中から突然飛び出したレベル2はそのままアレンを飲み込んだ。
腹の中にアレンを飲み込んだまま、レベル2は写し取ったアレンの左腕でお腹を刺し続ける。
暫くしてアクマから飛び出たアレンは左腕で攻撃を防いでいた。
アレンは左腕をソード状に変化させるとアクマの写し身を切り裂く。
生身となったアクマにアレンは渾身の力で弾を打ち込み、アクマはそれにアレンの左腕で対抗した。
アレンのララ達を思う強い心にイノセンスが反応し、アクマの腕はボロボロと崩れていった。
『く、くそっ!何でだ!同じ奴の手なのに……なに負けそうなんだよぉ!!』
「同じじゃない。対アクマ武器を真に扱えるのはエクソシストだけだ。」
「……今は怒りでシンクロ率も上がってるだろうしね。」
このまま、アレンが力押しで勝てるかと思った。しかし達はある可能性を見落としていた。
「リバウンド……」
突然血を吐いたアレンは対アクマ武器を維持する事が出来ず、その場に倒れ込んでしまった。
アレンの突然の変化に、アクマは絶好のチャンスとアレンの鈎爪を伸ばした。
「っ……」
その攻撃を受けたのはアレンではなく、咄嗟にアレンの前に飛び出しただった。
は膝を折り、その場へと倒れた。
「さんっ……!!」
「何やってんだ!てめえふざけんなよ!!」
そしてに攻撃した後、トドメと再び伸びてきたアクマの腕を神田の夢幻が受け止めていた。
「おい、モヤシ!!この根性無しが……こんな土壇場でへばってんじゃねぇよ!!
口にしたことくらい守りやがれ!!」
「……へばってませんよ。ちょっと休憩しただけです。」
神田の飛ばした檄にアレンは強がりながらも再び攻撃の構えを取った。
「「っ消し飛べ!!」」
二人が渾身の力を込めて放った攻撃は、アクマの身体を粉々に消し飛ばした。
────力尽き、地に伏した二人はアクマの攻撃で倒れたままのの方へ向かおうとするが、
身体はその思いと裏腹に筋一本動かせない。
「おい、!……っクソ!」
はアクマの攻撃をもろに受けていた。無事であるはずがない、早く手当をしなければ……!!
必死の思いで神田がへと手を伸ばすと、その先に倒れていたの身体がもぞりと起きあがった。
「っててて……あ、アレン大丈夫だった?」
そう言ってパンパンと服に付いた砂を払う姿に、神田もアレンも思わず言葉を失ってしまった。
「……さん!?怪我大丈夫なんですか?」
「ん?大丈夫だよ、ほら。」
ぴら、とコートを捲ってみれば、確かにそこには傷跡一つ付いていなかった。
嘘だ……と驚いた表情でアレンはを見るが、現に服が破れた形跡すらないのだ。
「おい、。どういう事だ。」
まだ起きあがれないのか、神田は倒れたままの状態でを睨む。
「あー……、説明は二人の手当をしながら……でいいかな?」
神田が怒っている理由を悟ったのか、
は少し気まずそうに目を泳がせジっと睨んでくる神田の視線から逃げようとする。
「おい……もう力は使うなよ。」
「オーケーオーケー。じゃあ応急処置するだけだから。」
そう言っては腰に付けたポーチから包帯などを出して、アレン達を手当てし始めたのだった。