「古代都市マテール」

“今はもう無人化したこの町に、亡霊が住んでいる” ……調査の発端は地元の農民が語る奇怪伝説だった。 亡霊はかつてのマテールの住人、街を捨て移住していった仲間達を怨み、 その顔は恐ろしく醜やか。孤独を癒すため、町に近づいた子供を引きずり込むと云う。



々の黄昏 4




「あの、ちょっとひとつわかんないことがあるんですけど……」

「アレン、今はそれより汽車だ!」


が焦ったようにそう叫び、トマの先導で汽車へと飛び乗った。 どうやらこの汽車を逃すと明日まで待たなければならなかったらしい。


「飛び乗り乗車……」

「いつものことだよ、アレン君。」


アレンが驚きで掠れた声で呟くと、は涼しい顔をして答えた。 此処までを屋根などを全速力で走ってきた自分たちになんなくついてきただったが、 科学班、と聞いては文化系なのだと思っていたアレンは内心驚いていた。 車内に入り、黒の教団ということで達は一等車両に通された。 ファインダーのトマは部屋の外で見張りとなり、アレンの向かい側にと神田が並んで座る。


「……さん、さっきの質問なんですけど」

「アレン君、悪いけど私は目的地まで少し眠らせてもらうよ。 実はこの三日間まともに寝て無くてさ。 その質問はユウにしてくれないかな?」


そう言っては、眠そうに目をこすりながら隣に座る神田を指さした。


「あ、はい。分かりました。 じゃあ、えっと……神田。どうしてこの奇怪現象とイノセンスが関係あるんですか?」


チッ


アレンの質問に神田は面倒くさそうに舌打ちをして、の方を見たが、 すでにはアイマスクをして熟睡中だった。 神田の眉間にしわが数本入り、を睨む目に殺気が籠もるが、が起きる様子はない。


「チッ……イノセンスってのはだな、 大洪水から現代までの間に様々な状態に変化している場合が多いんだ。 初めは地下海底に沈んでいたんだろうが…… その結晶の不思議な力が導くのか、人間に発見され色んな姿形になって存在していることがある。……そしてそれは必ず奇怪現象を起こすんだよ、なぜだかな。」

「じゃあ、この『マテールの亡霊』はイノセンスが原因かもしれないってこと?」

「ああ。"奇怪のある場所にイノセンスがある"。 だから教団はそう言う場所を虱潰しに調べて可能性が高いと判断したら俺達を回すんだ。」


めんどくさそうに神田は説明をし終わると、そっぽを向いて資料を読みはじめた。 アレンも資料に目を落とすが、ちらりと神田の方を見るといつの間にかの身体は神田の方に傾いていた。 神田も気にしていない様子だ。


(意外と仲いいのかな……この二人)


何となく気まずさを感じてアレンは資料に集中するようにした。



***




「ん……」


もぞ、とが動いて大きなあくびと共にのびをした。


「あ、さん起きたんですね。」

「ああ……アレン君はずっと起きてたの?」

「え、ええ……なんか緊張しちゃって。」


そう言ってアレンは頭をかいた。


「まあ、そんなものじゃないかな。初任務なんて。」

「そうですか?あ、もうそろそろ着くらしいですよ。神田起こさないと。」

「ん、ああ。ユウもこの所任務続きだったらしいから…… 疲れてたんだろうね。」


神田はに肩を貸した状態で寝ていた。 に揺り動かされて目を開ける。


「着いたのか。」

「もうすぐらしいよ。寝起きじゃ上手く身体が動かないでしょ?」


口調はいつものままだが、アレンと話す時とは明らかに神田の纏う雰囲気が違う。

ガタン、


「到着しました。ここからは足で向かうことになりますので。」


トマが扉の向こうからそう言った。 それを合図に3人は立ち上がった。 もう東の方に月が昇っていた。 駅から離れると辺りはかなり暗かったが、トマの暗闇に浮かび上がる白い服を先導にマテールの地へと向かった。