アレンとリナリーがノアに襲撃された、という報告を聞いたコムイはすぐさまブックマンを呼び寄せた。
教団と伯爵側の全面戦争、ノアの出現はその予兆ともいえた。
神々の黄昏13
「以上が私の記録する『ノアの一族』の痕跡だ。」
アレンとラビ達を追い出したあと、
ブックマンがコムイとに語った『ノアの一族』に関する話は、
メモした用紙が数十枚にもわたる非常に長いものだった。
その元始は7000年以上も前の事なのだから無理もない。
時代の転換期に世界の裏側で暗躍してきたこの『ノアの一族』が再び現れたという事は、
おそらく今後伯爵側に大きな動きがあるという事だろうと、
はその未来を想像して鬱々とした気分になった。
それはコムイも同じだったらしく、眉間にしわを寄せて資料を見つめている。
「心中お察しする、室長。アクマだけでも苦労する最中、このような存在の出現は胸が痛むな。」
「私なんか……辛くなるのはエクソシスト達ですよ。
私は伯爵の深い闇の中にあなた達を放り込むことしかしていない。」
「みな辛い。戦争で平等なのは苦しみだけよ。」
ブックマンとして今まで多くの戦争を記録してきたブックマンの言葉は正論だった。
しかしコムイのエクソシスト達に対して負い目を感じる気持ちもにはよく分かった。
イノセンスとのシンクロ率の低いはもっぱら開発に従事し、
危険と分かっている任務にエクソシスト達を送り出す事しか出来ない事も多かったからだ。
落ち込んでいるコムイを横目でみていた時、扉の向こう側で不自然な音が聞こえた。
ごく小さな音だったためコムイは気づいていないようだったが、
同じく不信な気配を感じ取ったらしいブックマンとは目くばせをし、がイノセンスに手を掛け扉へと向かった。
────暗闇の中の希望(ブラックボックス)発動────
「どうした、?」
「コムイさん、リナリーを連れて身を潜めていてください。」
「闇に主の顔まで曝すことはない。」
コムイ達が荷物の影に隠れた事を確認して、は小さなウエストポーチから拳銃を取り出した。
これがの二つ目のイノセンスである。
【黒塗りの手袋】同様真っ黒なウエストポーチは文字通りブラックボックスであり中の構造は不透明だ。
研究開発のための様々な用具を自由に出し入れが出来るだけでなく、の"想像する"様々な武器を発現することが出来る。
シンクロ率が低いためその数は少ないが、現在では拳銃、日本刀、大鎌、弓矢を"対アクマ武器"として発現できる。
病院内であることを考えは"拳銃"を選択した。日本刀や大鎌では低い天井や狭い病室で動きを制限されてしまう。
このようにケースに合った武器を選択できるのはこのイノセンスの大きな強みである。
────ガチャリ
がドアを開けると、そこには医者や看護師の姿をした者を含む複数の"人間"がいた。
しかしアレンの左眼がなくとも判別は容易であった。
自我が発生するレベル2ではそうは行かないが、
レベル1のアクマは動きがぎこちないだけでなく、"人間"を前にした際の殺気がだだ漏れなのだ。
殺気を垂れ流す人の皮を被ったアクマにに対し、は迷うことなく銃口を向けた。
同じく拳銃型のイノセンスであるクロス元帥の【断罪者(ジャッジメント)】の威力には到底かなわないが、
レベル1程度のアクマであれば問題なく破壊することが出来る。
勝負は一瞬だった。
は6発の銃弾を全てアクマ達の眉間に打ち込み破壊した。
「、また腕を上げたな。」
寸分の乱れもないの技術を見たブックマンは素直に賛辞を送った。射撃の正確さだけで言えばクロス元帥をしのぐかもしれない。
しかしは複雑な気持ちで苦笑した。射撃の腕を必死で磨いたのは、イノセンスとしての威力の弱さを少しでも補うためだ。
────ガタッ
ブックマンとの間に再び緊張が走った。
この気配は恐らくレベル2のアクマだ。
次の瞬間、左手がクマの形をしたアクマが室内に突撃してきた。
その足元で先程が破壊したアクマ達の死体がぐしゃりと潰れる。
レベル1の様に1発の弾丸で破壊することは出来ないが、ブックマンと共に足や腕を吹き飛ばしアクマの機動力を奪った。
瀕死の状態となったアクマに近づきブックマンが問うた。
「吐け、何用で参った?」
「クックククククッ……千年伯爵サマからの伝言だ……
『時は満ちタ♥100年の序章は終わりついに戯曲は流れ出ス♥
開幕ベルを聞き逃すな。役者は貴様等だ、エクソシスト♥!!!!』」
────ただでは壊られねえ!
そう叫んでアクマは兎の形をした腕を切り飛ばした。
その先にはコムイ達 ────マズい、とはそれを追ったが間に合わない。
次の瞬間には巨大な爆発音とともに真っ黒な煙が浮き上がった。
「ッコムイさん!!リナっ……」
煙が収まった後、そこに現れたのは無残なコムイ達の死体ではなく【黒い靴(ダークブーツ)】を発動したリナリーの姿だった。
予期しなかったアクマの攻撃には一瞬心臓が止まる思いがしたが、その姿を見てホッと胸をなでおろした。
「リナリー……良かった、起きたんだね!」
「、ごめんね……心配かけちゃった?」
「良いんだよ、リナリーの目が覚めて本当に良かった。」
「リナリーも起きたし、アレン達を呼び戻さないといけませんね。」とがコムイに言ったのと、
アレンとラビが病室の窓を破壊し突っ込んできたのは、ほぼ同時の事であった。
、リナリー、コムイは危うく難を逃れたが、
見事にアレンの下敷きにされたブックマンが、ラビ達にぶち切れたのは言うまでもないだろう。