「や、数日ぶりだねアレン。」
神々の黄昏12
巻き戻しの街での戦闘の後、気を失ったアレンは約一日たって目を覚ました。
そのとき無事だった右目に飛び込んできたのは、器用にシュルシュルとリンゴを剥いているの姿だった。
「え、!?何で此処に居るんですか、というか此処は何処ですか!?」
「まあ、落ち着こうよ。イノセンスは無事回収された。此処は病院だよ。」
「病院……?そうか……僕、あの後寝ちゃったんですね。」
「今回の件はアレンもリナリーも本当に頑張ってくれたね。
ノアが出てきてたんだ、二人とも殺されていても可笑しくないぐらいの危険な任務だったよ。」
そう言っては深くため息を吐いた。
その言葉にアレンはハッとあの時の状況を思い出した。
「リナリー……リナリーは、無事なんですか!?」
「神経へのダメージだったから、まだ目覚めてはいないけど……大丈夫、じきに意識も戻ると思う。
申し訳ないのが、これからまた君たちには次の長期任務に向かってもらわなければ行けない事だよ。
アレン君の右目もまだ治ってないのに。
このエクソシストの慢性的人員不足をどうにかしたいけど、こればかりは……ね。
無理やり増やそうとして出来るものじゃないから…………。」
は少し悲しい目をしながらアレンに兎型に切ったリンゴを渡した。
アレンは器用だなあ、と思うと同時にの言葉に少し疑問を持った。
「長期任務ですか……?」
アレンの様な新人エクソシストがそういった任務に就くことは珍しいため疑問に思うのも無理は無かった。
アレンが何を思っているのか分かったのかは苦笑すると残りのリンゴを全て剥き切り皿に載せるとアレンに渡した。
「任務に関する詳しい事は、リナリーが目覚めてから説明するね。
それまでアレン君はブックマン達と話しててくれるかな?今後一緒に任務に就くことになるから。」
「ブックマン……?」
「じゃあ私はコムイさんの所に行ってくるからアレンの事よろしくね、ラビ。」
が誰もいない荷物置き場の所に向かって話しかけたのかと思ったら、
そこからひょっこり出てきたオレンジ色の鮮やかな髪にアレンは驚いた。
自分と同い年ぐらいに見えるこの少年の名前はラビというらしい。ではブックマンとは誰のことなのか……?
そう疑問に思った矢先に、部屋を出ていくと入れ違いに小柄な老人が入ってきた。
「ブックマンという。よろしく。」
「あ、アレン・ウォーカーです。よろしくお願いします。」
目の周りを黒く塗ったメイクに少し面喰っていたため、名乗られて慌ててぺこりと頭を下げた。
この人がブックマンか、とアレンが思っているとブックマンはアレンの包帯のまかれている右目をじっと見てきた。
────まるで初対面の時のみたいだ。
「から話は聞いている。それがアクマに呪われた右目か。」
「はい、今回潰されてしまいましたけど……」
「うむ。それに関してはの仮説では元に戻る可能性も高いらしい。
包帯を取ってみてくれるか・・・やはり回復し始めておるな。その様子なら私の針は必要ないだろう。
なんにせよしばらく、その察知能力は使えんのだから用心が必要だぞ。」
(そんな事をは言っていたのか。)
この呪われた右目が元に戻る事は嬉しいのかと聞かれると、上手く応えられる自信はアレンには無かったが、
やはり人の皮を被ったアクマを見分けられる能力はエクソシストにとって非常に有用なものであった事は間違いない。
「アレン・ウォーカー……『時の破壊者』と予言を受けた子供……
説明が遅れたな。われらはブックマンと呼ばれる相の者。理由あってエクソシストとなっている。
あちらの小僧の名前はラビ。私の方に名は無い、『ブックマン』と呼んでくれ。」
『ブックマン』は名前ではないのか。
イマイチ腑に落ちなかったが、それ以上にコムイさんと、そしてエクソシストが4人も集結しているこの状況に、
アレンは何か大きな事情があるような気がしてしょうがなかった。
「あの……さっきが言ってたんですけど、コムイさんも此処に居るんですか?
それに『ノア』って……いったい今何が起きているんですか?」
「アレン・ウォーカー。
……今は休まれよ。リナ嬢が目覚めればまた動かねばならんのだ。」
有無を言わせぬオーラでそう言ってブックマンは部屋を出て行った。
その後、アレンはリナリーの病室にお見舞いに行こうとしたが達は大事な話し合いをしているという事で、
中に入れさせてもらえなかった。
手持無沙汰になったアレンと『ラビ』という隻眼の少年は顔を合わせて苦笑した。