僕が教団に入団してから、3ヶ月ほどたった。
コムリン事件はとリナリーのおかげで収束し、壊滅した建物もみんなの手でようやく修復された。
でも、あの事件以来、僕がを見かけることはめったになくなった。
たまにふらふらと食堂に来るのを見るくらいで、明らかに以前のではなかった。
でも、ジェリー曰く“アレが普通よ!もっと酷いときもあったぐらいなんだから〜♪”というのだから、
には驚かされてばっかりだと思う。
何でも、この前のマテールの亡霊でが着ていたコートを量産化するために毎日研究室に籠もっているらしい。
……そして最近では食堂でも見かけなくなった。どうやら研究室で食事もとっているみたいだ。
神々の黄昏11
アレンは驚いた。
この数週間、ずっと見かけることすらなかった人物が目の前にいたからだ。
────無意識に目で追っていた人物が────
「ちゃん、説明お願い……」
「……えーっと、今回二人には少し面倒な任務にあたってもらいます。」
書類の山に埋もれたコムイから、震える手で差しだされた資料を受け取り、はおもむろに話し始めた。
「イノセンスの回収なんだけど、確証は無いんだよね。確証は。
でも奇怪が起こっている限り、調べてみないといけないわけ。」
そういって疲れた様子ではため息をついた。
「、その奇怪ってなんなの?」
「────街が巻き戻ってる。時間と空間がとある一日で止まったままその日を延々と繰り返している。
何でもその街はまだ10月9日らしいよ。」
「10月9日って、もう一ヶ月前じゃないですか!!」
「そう。しかもファインダーじゃその街には入れないらしくて。そこでコムイさんが立てた仮説が2つ。」
そう言っては2本の指をすっと立てた。
「一、もしこれがイノセンスの奇怪なら同じイノセンスを持つエクソシストなら中に入れるかもしれない。
二、ただし街が本当に10月9日を保持し続けているなら入れたとしても出てこられないかもしれない。
……ということで、長い任務になるかもしれないけど二人で行ってイノセンスを調査、回収してきてほしい。」
はい、といって資料を渡された。
の目の下には、以前は無かった濃い隈があった。
***
「大丈夫でしょうか、リナリーとアレン。」
「あの二人ならやってくれると思うよ。
最近伯爵側の動きが不透明になってるから、不安はつきないけど……」
「そうですね。特にノアは、これからどう出てくるか、能力も未知数。」
そう言って私はココアをずずっとすすった。
ちなみにリナリーがいれてくれたもの。連日の徹夜で麻痺した脳に糖分が染み渡る。
「そして、ルベリア長官殿。あれ以来催促がしつこくて、しょうがないですよ。
確かに私の研究は人件費削減に繋がると言いましたが……これでは私が先にお陀仏です。」
「まあまあ、ちゃんは科学班期待のホープだからさあ〜。
それに、もう大半は完成してるんだろ?」
そう言ってニッコリと笑うコムイは確信犯だ。在る意味ルベリエよりもよっぽどタチが悪い。
はあ、と私は大きくため息をつき、ぬるくなったココアを飲み干すと研究室へと戻っていった。
──────そういえば、リナリーは長官殿のことが嫌いだったよなあ。
だれもいない廊下で独り言ちた。
私の場合、トラウマとまではいかないが、彼を見ると思い出したくない事まで思い出す。
出来うる限り関わり合いにはなりたくないのだが。
いつもルベリエ長官から私を守ってくれていたあの人の事が脳裏によぎった。
……あの人が私のすべてだった。
必死で勉強し、知識を身につけたのは少しでもあの人の役に立ちたかったからだ。