爆音と共に壁を貫いて現れたのはコムリンだった。


「えええぇぇええ!?」

「出たぁ……」



々の黄昏10



『エクソシスト発見、手術だ──────!!』


そう言って振り下ろされたロボットの巨大な腕が地面を深く抉った。


「まずい、アレン。逃げるよ!!」

「は、はい!!」

「アレンはリナリー背負って!!」


そう言うとはリーバーを背負って、先頭に立って階段を駆け上がった。 アレンは軽々と男一人を背負うに驚いたが、後ろから迫ってくるコムリンにその思考はすぐに押し遣られた。 教団の吹き抜け部分に出た時に、の背中でリーバーが動いた。


「………大丈夫だ。自力で走れる……。」

「あ、リーバー班長起きたんですか。」

「ああ。悪かったな……コムリンで楽しようとしたバチがあたったのかな。 お前達は命懸けで戦場にいるのにな。……お帰り、。アレン。」


背中からおろして貰い、そう言ったリーバーにアレンは戸惑いながらもただいま、と返した。 照れくさくて視線を前にやると、宙に浮く四角錐型の何かに科学班の面々が乗っていた。 彼らはアレン達を発見して、こちらに大きく手を振る。


「おおーい、無事かー!!」

「班長ぉ、はやくこっちへ!」

「あ、達も帰ってたのか!こっちこい、早く!」

「リナリーはまだスリムかぁい!?」


その瞬間、アレンはプチっと隣の方から何かが切れる音がした気がした。 恐る恐る隣を見れば、はいつもの様に柔らかく笑ってはいるが後ろに背負っているのは紛れもなくブリザードだった。 コツコツとブーツを鳴らしてコムイ達の方に近づくとはニッコリと笑って言った。ただし目はまったく笑っていないが。


「コムイさん。コムリンはもう作らないって約束じゃ無かったですか?」

「違うよ、!今回のはコムリンUって言って前回とは比べものにならないくらい……」


反論しようとしたコムイが止まったのは、が回廊の手すりを乗り越えて数メートルは離れたこちらへ飛び移って来たからだ。


「Uだろうが何だろうが、暴走してるなら関係ありませんよ。 止められないなら破壊しますけど。異存ないですよね?」

「いや、まってくれ……」

「やれ!!!」

「倒しちまえ!」

「ついでに室長も!!」


コムイの必死の制止は科学班によって阻止される。 最後の方には何やら危険な発言もあったが、コムイ以外全員一致で破壊に賛成なのだから問題ないだろう……
そう考えるとは大砲の先端部へと異動する。


「コムリン、悪いけど。恨むのならコムイさんを恨んでね。」


そうコムリンに向かって言いポケットから手袋を出そうとしたとき、 後ろからの突然の衝撃にの身体は傾き、そのまま重力に従い遙か底へと落下していった。 それはコムイがを突き飛ばしたからだった。


「ちょっ!……うわぁぁあああああぁ────!!」

「室長!!なにやってんですか!!」

「だってがコムリンを壊そうとするから!!」


何とも自分勝手な主張が上から降ってくる、それを感じながらもの身体は重力に従って落ち続けていた。 これで死ぬのはさすがに嫌だなあ、と先ほど取り出そうとしていた手袋を探った。

そうこうする間に確実に近づいてくる地面を前に、は突然の浮遊感に襲われた。 突然落下を停止した身体に置いてきぼりにされた内蔵のせいで吐き気がこみ上げる。 そんなのお腹の部分をしっかりと支えていたのはリナリーの腕だった。


「……大丈夫、。」

「リナリー!?起きたの?」


それに頷くこともなくの身体を抱いたままリナリーは宙を蹴って上へと向かった。


「ありがとう、リナリー。もう大丈夫だから。」

「……本当?」


まだ麻酔が完全に抜けてないのか、リナリーはすこしボーっとした返答だったが、 それにはしっかりと力強く頷く。


────Black Gloves(黒塗りの手袋) 発動。


そう小さく呟くと、手にはめた手袋からジェット噴射ほどの勢いの焔が吹き出た。 それを下に向ければのからだはリナリーの腕から離れ宙に浮く。 はキッとコムイ達のいる上を見上げ、焔の勢いを強くした。 身体は一直線に空を突き進み、すんでの所で勢いを弱めると、はエレベーターの先端部へと着地した。 くるりと振り返り、コムイを視界へと捉える。


「コムイさん。突き落とすだなんて……どういうつもりですか?」


の背後にあるのは紛れもなく般若だ。その瞬間科学班の心中はシンクロしていた。


「ごめんよ〜。でもちゃんがコムリンを壊そうとするから!!」

「へえ、こいつのせいで私は危うく死にかけたんですか。 ……やはり完膚無きまでに叩きのめさなければいけませんね。」


口元には微笑をたたえているのに、目が完全に笑っていない。 氷よりも冷たい視線がコムイを刺す。

ポキポキと腕を鳴らし、が右手をコムリンに向けた瞬間。 爆音と共に、コムリンからは黒煙がもうもうと上がっていた。 哀れ、コムリンは重力に逆らうことなく奈落へと落ちていった。

そして少しして上がってきたリナリーと共に、コムリンを失って号泣しているコムイを蹴り落とした。 科学班からは歓声が上がる。 なんだかなぁ、とジョニーが呆れたようにため息を吐いたのは無理もないだろう。